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大阪地方裁判所 昭和33年(ワ)810号 判決

原告(参加被告) 阪南石油株式会社

参加原告 革僑信用金庫

被告 大栄ビスケツト株式会社 外一名

主文

原告(参加被告)の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告(兼参加被告以下単に原告と称する)は「被告等は原告に対して別紙目録記載の物件を引渡せ。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求め

その請求の原因として

原告は石油販売業者であるところ、被告大栄ビスケツト株式会社の注文に応じて同被告に石油類を売渡す契約を締結した際に、同被告の原告に対する右売買代金債務の支払を担保する為に、昭和三〇年四月二四日、同被告との間に、同被告が原告に対して右売買代金債務をその履行期に支払わないときは、同被告は原告に対してその代物弁済として同被告所有の別紙目録記載の物件を被告所有の大阪市東住吉区西今川町一丁目一六番地宅地三七二坪六合九勺、同宅地上家屋番号同町第七番木造セメント瓦葺平家建事務所建坪二二坪五合外五筆の建物と共に所有権を譲渡してその占有を引渡す旨の代物弁済予約を結んだ。

その後、原告は被告大栄ビスケツト株式会社に対して石油類を売渡したが、同被告は原告に対して右売買代金債務の履行期にその支払を為さず昭和三二年五月二五日現在において既に履行期の到来している金九九三、一六三円の売買代金債務を負担するに至つたので、原告は同被告に対して、同日附の書面をもつて、原告は前記代物弁済予約に基いて別紙目録記載の物件を金八〇〇、〇〇〇円と評価して、右評価額相当の前記売買代金債務の代物弁済として原告においてその所有権を取得した旨を告知し、併せてこれが引渡を求めたが同被告は右引渡の請求に応じないので同被告に対してその引渡を求める。

被告大栄ミルクケツト株式会社は被告大栄ビスケツト株式会社から同被告所有の前記別紙目録記載の物件を借受け、これを大阪市東住吉区西今川町一丁目一六番地に移転し、同所において右物件を占有使用している。しかしながら、前述のように、その貸主である被告大栄ビスケツト株式会社は右物件の所有権を喪失しているので被告大栄ミルクケツト株式会社は現在これを占有使用するに付いて何等の権限もない。よつて原告は右物件の所有権に基いて同被告に対して右物件の引渡を求める。

と述べ

事情として、被告大栄ビスケツト株式会社は原告に対する前記石油類の売買代金債務の支払を担保する為めに昭和三〇年四月二四日原告を債権者として前記宅地一筆建物五筆及び別紙目録記載の物件について工場抵当法第三条による第三条による極度額金二、五〇〇、〇〇〇円の根抵当権を設定し、且つ同時に原告に対して、右債務不履行の場合にはその代物弁済として右不動産及び動産の所有権を譲渡する旨の代物弁済予約を締結し、工場抵当法による根抵当権の設定においては動産不動産共にその登記をしたが、代物弁済予約においては動産について右予約の公示の方法がない為めに、不動産について代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記をしたに止り、動産について右予約を公示する方法をとつていない。被告大栄ミルクケツト株式会社は被告大栄ビスケツト株式会社から別紙目録記載の物件の所有権の譲渡を受けたかのように装つているが、元来大栄ミルクケツト株式会社なるものは大栄ビスケツト株式会社の債権者を詐害する目的で創立された第二会社で大栄ビスケツト株式会社に右物件の代価を支払つて買受ける等右物件を取得する原因がないので右所有権譲渡は仮装のもので実在しない。従つて所有権は原告がこれを取得するまで被告大栄ビスケツト株式会社に属していた

と述べ

立証として甲第一乃至第三号証を提出し、証人大倉恒雄の訊問を求めた。

被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め

答弁として

原告が石油販売業者で、被告大栄ビスケツト株式会社が原告から石油類を買受けた結果、原告主張の額の売買代金債務を負担していること、原告から同被告に原告主張の代物弁済予約に基いて原告が別紙目録記載の物件の所有権を取得した旨の通告右物件の引渡の催告書を送つて来たこと、被告大栄ミルクケツト株式会社が現在右物件を占有使用していることは認めるが、原告と被告大栄ビスケツト株式会社間に別紙物件目録記載の物件に付いて原告主張の代物弁済予約のあつたことは否認する。代物弁済の予約は原告主張の不動産についてのみ締結されたものである。従つて原告が被告大栄ビスケツト株式会社に対して右動産について代物弁済予約完結の意思表示をしても、基本となる代物弁済予約がないので、原告はその所有権を取得できない。原告にその所有権あることを前提として被告等に対して右物件の引渡を求める原告の請求は失当であると述べ

立証として乙第一乃至第三号証を提出し、被告大栄ビスケツト株式会社代表者呂国勲本人の訊問を求め、甲号各証の成立を認めこれを援用した。

参加原告(以下参加人と称する)訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め

その請求の原因として

原告は被告大栄ビスケツト株式会社との間に別紙目録記載の物件に付いて原告の主張するような代物弁済の予約を締結していないので、仮りに原告が右被告に原告の主張するような代物弁済予約完結の意思表示をしても、代物弁済による右物件の所有権取得の効果を生じない。

仮りに原告が代物弁済によつて別紙物件目録記載の物件の所有権を取得したとするも、右物件は大阪市東住吉区西今川町一丁目一六番地所在の家屋番号同町第七番の被告大栄ビスケツト株式会社の工場建物備付の機械器具であつて、昭和二九年一二月一三日右被告が参加人に対する債務の支払を担保するために参加人を権利者として右工場建物について限度額金三、〇〇〇、〇〇〇円の工場抵当法による根抵当権の設定をした際に、同建物備付の機械器具として、右根抵当権の目的物件中に含めた物件で、同月一六日、右工場建物についてその旨の抵当権設定登記を申請した際に、工場抵当法第三条による抵当権の目的物件の目録中右目的物件に該当するものとして記載したものである。そして参加人は右被告に対して現在約金六、五〇〇、〇〇〇円の債権を有し、そのうち金三、〇〇〇、〇〇〇円は右工場抵当法による根抵当権の被担保債権である。原告主張の原告が右被告との間に各物件について代物弁済予約を締結した日及び右予約完結の意思表示をした日はいづれも参加人の右抵当権設定登記手続を終つた後であるので、参加人は別紙物件目録記載の物件についても右根抵当権をもつて原告に対抗することができる。そして右物件がその抵当権者である参加人の意思に反して第三者に引渡されるときは、参加人は抵当権を侵害せられることになるので、参加人は右抵当権に基いて、右物件が原告に引渡されることを阻止する権限がある。

そればかりでなく、右被告は参加人に対して前記の債務をその期限に支払わなかつたので、参加人は昭和三二年九月二日同被告を債務者として前記抵当権の被担保債権元本金三、〇〇〇、〇〇〇円及びその遅延損害金債権について別紙物件目録記載の物件を含む根抵当の目的物件の競売を申立て、同年一〇月二二日大阪地方裁判所において右競売手続の開始決定があつた。右競売開始決定後は原告は右被告に対して右物件の引渡を請求する権利はない。

よつて参加人は原告に対して原告の被告等に対する右物件の引渡請求の阻止を求むるため本訴参加に及んだと述べ

立証として丙第一乃至第三号証を提出した。

理由

先つ本件参加人の訴訟参加が適法であるかどうかについて判断する。参加人は、その参加申立において、自らを独立当事者参加人と表示し且つ本件訴訟物の全価額に相応する額の印紙を貼用している点から見て、民事訴訟法第七一条による参加をする意思であることを認めることができる。然るに、その請求の趣旨を見ると、原告に対して原告の請求を棄却するとの請求をしているだけで、被告に対しては何等の請求もしていないばかりでなく、被告と参加人の訴訟代理人は同一の弁護士であつて、参加人から被告に対して被告に不利な請求をすることができない関係にあるから参加人が被告に対して何等の請求もする意思のないこと極めて明瞭である。民事訴訟法第七一条の訴訟参加は本来から云えば繋属中の訴訟の原告と被告の双方を参加被告として、右両者に対して参加人独自の請求をするために訴訟に参加する場合の規定であつて、訴訟の第三者が訴訟当事者の一方のみに対して請求を為す場合には、訴訟参加を為さず、別個の訴を提起するが相当である。訴訟の結果に因つて第三者がその権利を害せられるおそれのある場合であつても、右第三者が当事者の一方と利害を共通にし、他の一方とのみ対立関係にあるときは、民事訴訟法第七五条による訴訟参加の要件を具備している場合を除いて、同法第六四条の補助参加を為すのが適当であつて且つ右補助参加をすることによつて十分に訴訟の目的を達することができる。しかしながら、右のように、補助参加をするのが適当で且つ訴訟の目的を達することができる場合に同法第七一条による訴訟参加の申立をしたときは同法条所定の参加の要件を具備しなければ右参加申立は単に同法第六四条による参加としてのみの効力を持つに過ぎないのであるが、右第七一条の参加の要件が具備する限り参加人が当事者の一方のみに対して請求を為し、他の一方に対しては何等の請求をしないからと云つて、右訴訟参加を同法条による訴訟参加として不適法であるとする理由はない。(昭和九年(オ)第七三六号隠居無効確認請求事件、昭和九年八月七日大審院第五民事部判決民事判例集一三巻一八号一五五九頁)右第七一条による訴訟参加において参加人が当事者の一方に対する請求を当初から抛棄し、他の一方に対してのみ参加人独自の請求をしても、これを不適法とする理由はないからである。本件について見るに、参加人の請求の原因として主張するところによれば、原告が本訴において請求している物件の引渡を受けるときは参加人の右物件についての抵当権を害せられると云うのであるから、参加人は本訴の原告及び被告の双方を参加被告として被告が原告に対して右物件の引渡をしてはならない旨の請求をして、第七一条による訴訟参加をすることができる場合に該当する。従つて参加人が原告に対してのみ原告の請求を棄却するとの請求をして、被告に対して何等の請求をしないとしても、右参加人の訴訟参加が右法条による参加として不適法であるとする理由はない。結局右訴訟参加は適法である。

よつて参加人の主張について判断するに、別紙目録記載の物件(以下本件の物件と略称する)が大阪市東住吉区西今川町一丁目一六番地所在の家屋番号同町第七番の被告大栄ビスケツト株式会社所有の工場建物(以下本件工場建物と略称する)に備付けられた機械器具であることは弁論の全趣旨に徴して当事者間に争のないところである。そしてて、公文書であるので真正に成立したと認める丙第一号証及び同第三号証によれば、右被告は昭和二九年一二月一三日、被告参加人に対する債務の担保として参加人を権利者として右工場建物を目的として限度額金三、〇〇〇、〇〇〇円の工場抵当法による根抵当権を設定し、その際に、本件の物件を右工場建物に備付けられた機械器具として右根抵当権の目的物件中に含め、同月一六日、右工場建物について右趣旨の根抵当権設定登記の申請を為すと同時に、工場抵当法第三条による抵当権の目的物件の目録中に本件物件を記載して登記所に提出して、その旨の登記手続を終つていることを認めることができる。従つて、本件物件は参加人を権利者とする右工場抵当法による根抵当権の目的物件であつて、参加人は右根抵当権設定登記手続以後に右物件について権利を取得した者に対して右根抵当権をもつて対抗することができる。そして原告の主張によれば原告が右物件の所有権を取得したのは右抵当権設定登記手続のあつた以後であることは原告の主張自体によつて明らかであるから、参加人は原告に対して右根抵当権をもつて対抗できるわけである。

民法の抵当権にあつては、抵当権の目的物は不動産であるのでその設定登記手続後に右目的物の占有の移転があつても、右目的物の競売手続でその競落人に目的物の占有を取得させることは容易である。従つて右抵当権の効力として、その目的物の占有の移転を禁止する効果を認める必要はない。しかしながら、工場抵当法による抵当権にあつては、工場の土地又は建物の備付けた機械器具その他工場の用に供する物で、同法第三条所定の目録に記載されることによつて抵当権の目的物となつたものは、多くはその物自体としては動産であつて、たゞ右工場抵当法による抵当権の目的物である限りにおいて、工場の土地又は建物と結合して一体を為すものとして取扱われるに過ぎない。このような本来動産である抵当権の目的物は、その備付けられている土地又は建物の占有と切離してその占有を第三者に引渡した場合には、その引渡を受けた第三者は右物件をその備付けられている土地又は建物から取引してこれを場所的に移転する権限を与えられることになり、その所在地の移転と占有権の移転との為めに、抵当権の実行としての競売手続の際に、その競落人に右物件の占有を取得させることは、殆んど不可能に近いまでに困難となるおそれがある。このような事態は工場抵当法による抵当権を認めた法律の目的に反するものである。従つて工場抵当法による抵当権の効力として抵当権者は右抵当権設定後は同法第三条の手続によつて抵当権の目的物となつた動産をその備付けられている土地又は建物から切離して処分し、その占有を第三者に引渡すことを目的物毀損の一種と見做してこれを阻止することができると解するが相当である。

前認定のように、参加人は本件物件の工場抵当法による抵当権者であつて、右抵当権をもつて原告に対抗することができるところ、原告は本訴において右物件の備付けられている工場建物から切離して、右物件のみの引渡を受けることを被告に請求しているのであるから、参加人は原告及び被告に対して右物件の引渡を禁止することができる。従つて原告に対して原告の本訴請求の棄却を求める参加人の請求は、原告が代物弁済によつて右物件の所有権を取得したか否かを判断するまでもなく、正当であること明らかである。

右認定のように、原告の被告等に対する本訴請求は参加人との関係において失当であるから、被告等との関係においても、これを認容することはできない。

よつて参加人の請求を認容し、原告の請求を棄却し、民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 長瀬清澄)

物件目録

種類名称 構造記号番号その他特質 個数 製作所 製造年月日

混合機 フレーム55×7×3・ドーム32×37(モーター10HO付) 一 野工業所 昭和二七年三月

引延機 一 同右 同右

切断機 フレーム7×31×29(モーター5HO付) 一 同右 同右

混合機 4×4.5(モーター3HO付) 一 精堂 昭和二九年一〇月

粉砕機 4×3(モーター1/4HO付) 一 竹村精米機製作所 同右

運行釡 4×108(モーター3HO付) 一 不詳 昭和二七年六月

モーター 一馬力 一 同右 同右

コンペア 24×25×99 一 同右 同右

ロール フレーム7×31×9・ロール1×23(モーター5HO付) 一 同右 同右

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